「なぁシンジ君、俺と付き合ってみない?」
「…はい…?」

 いつものように、ネルフ施設内の自販機の横で他愛のない日常会話をしながら2人で缶コーヒーを飲んでいたときのこと。
突然、加持の口からさらりと出た言葉。ムードも何もあったもんじゃない、そんな軽い告白だった。
加持のすぐ隣にいる黒髪の少年は、くりっとした丸っこい大きな瞳をパチパチと瞬きしてから、頭上に?マークを付けているみたいに彼の顔を凝視した。

「付き合うって…」
「恋人、って意味で」

加持はシンジと距離を詰め、そっと顔を覗く。
まだよく状況を理解できていないシンジはポカンとした表情で加持の顔を見つめるのだった。

「ひとつ聞いてもいいですか。あの、加持さん…どうしてぼく相手に口説く練習するんですか?」
「ははっ、これ本番のつもりなんだけどな。俺と付き合うのは、嫌かい?」
「えっ…えええええ!?」

(まさか、そんな―…)

シンジは仰天して手に持っていた缶コーヒーを危うく落としそうになった。
いきなりの展開に頭がついてかないのか、動揺しているシンジに加持は相変わらず落ち着いた口調で優しく語りかける。

「今すぐにとは言わない。返事はまた今度聞かせてくれたらいいからさ。俺が嫌いなら無理にとは言わないし、選ぶ権利は君にあるんだ」
「き、嫌いだなんてひと言も言ってないです…!」
「じゃあ、いいってこと?」
「そうとも言ってないです!!だって、おかしいじゃないですか、加持さんもぼくも男で…。付き合うとか、そんなの、どうするんですか…!たしかに加持さんは格好いいけど、何でぼくなの…?分かりません、ぼく、どう言えばいいのか…」
「ごめんシンジ君。困らせたかな。でも俺は君が、好きだよ」

 加持はふわっと笑ってシンジの頭を優しく撫でた。
とたんにシンジは一気に真っ赤になり、綺麗な瞳が微かに揺れる。反論しようと何か言おうとしても、案の定、妥当な言葉が思い浮かばない。
柔らかな笑みを浮かべる加持の整った顔立ちを間近で見たシンジは、心拍数が上がっていくのを感じた。
こんなのありえないと心の中で必死に否定しても、胸の高鳴りが止まない。

(どきどきしてる…っどうしよう)

あぁ、まただ―…。加持はいつも突拍子もないことを言うから自分はいちいち反応してしまい、振り回されて取り乱してしまう。
その訳を深く考えるのが恐ろしかった。
好きだなんて、恋だなんて、そんなものに没頭してしまえば自分はもっと弱くなってしまうような気がした。
認めてしまったら、楽になれるのにと何度思ってもやっぱり怖くて仕方ない。

(もっと素直になれたらいいのに)

「加持さん、ぼく…」
「分かってる。でも、ほんの少しでもいいから…俺のこと信じてくれないか」

 胸の内の苦しさに俯いて目に涙を溜めるシンジを、加持はそっと引き寄せて抱き締めた。
前々から何となく感じていた、加持が自分に向ける視線が他の人と少し違っていることも、それが嫌じゃなくて、むしろ嬉しくてどこか少し安心していた。
逞しい腕の中で感じる心地よさと切なさに、あぁ、もうとっくに自分の中では答えは出ているのかとシンジの頬を涙が伝う。



(本当は好きです気づいてお願い気づかないで)





End.



2012.04.09



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