ぽっかりと空いた心の穴から、色々な感情が零れ落ちる怖さを知っている。
ただやみくもに悩んでもどうすることもできない。何に関しても半ば諦めたような思いで毎日を送っていた。でも、今は―――。
この場所に来て変わっていった僕の心境と少しずつ向き合えているのかもしれない。
護りたい、大切な人達がいる。そしてあの人への想いが胸の真ん中にじわりと広がって、痛いのに嬉しかった。



*******



 ザアッ、と部屋のカーテンを開ける。

明るい朝の太陽の光は部屋を照らし、寝起きの目には調度良いくらいの眩しさだった。
ふと布団の枕の横に置いてある携帯のランプが規則正しく点滅しているのに気付いて、手に取って待受画面を見れば、新着メールの表示が1件。
こんな日曜の早朝にメールをしてくる人物に、心当たりがない訳じゃなかった。むしろ、ひとりしか思いつかない。
眠っていてメールが来たのに気付かなかったということは、今日の彼は自分よりも早く起きていたんだろうか。
普段はあんなルーズなくせに、こういう時は案外しっかりしているから可笑しくて少しだけ顔が緩む。



受信トレイ
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日時:××/××/××
07:50
差出人:加持リョウジ
件名:おはよう
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今日は出かけるのと部屋でゆっくりするの、どっちにする?

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 本文にはシンプルにそう書いてあった。
しばらく考えて、何となく今日はゆっくり過ごしたかったから、
『おはようございます。加持さんのマンションでゆっくりしたいです。お邪魔してもいいですか?』とだけ打って返信した。
そして2分後、携帯のバイブ音が鳴った。画面を開き、内容を確認する。


受信トレイ
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日時:××/××/××
07:54
返信:加持リョウジ
件名:無題
――――――――――――――――――

了解。楽しみに待ってるよ。
あと、あんまり遅いと迎えに行くからな。

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 さて、着替えて朝食の仕度をしなければ。
まだぐっすりと寝ているミサトさんの分も用意しなければならないから、ぐずぐずしている暇はない。
シンジは窓の外の景色を見ながらそう思った。

―…最近のちょっとした心境の変化。それは、日曜の朝が好きになったということ。
時間を気にせず、彼と少しでも長く一緒に過ごせるのがとても嬉しかった。
加持と出会ってから、切なさや苦しみ、不安を感じることが決して減ったわけではない。
だけども、生きていく上でつらい経験を味わうのは決して無駄なんかじゃないということが分かった。悲しみだけが全てじゃない。
どんな人にも喜びや楽しさ、幸せを他の誰かと分かち合う時間は与えられている。それに気付いたら、ほんの少し気持ちが楽になった。

自分を待ってくれているという安心感を知ってしまった今、この世界へ対する捉え方が確実に変わっていった。
好きな人ができるというのは、当たり前なんかじゃなく、すごいことなのだと。


(この先にどんな未来が待っていても、目に見えない不確かなものが変わらないのならば。僕は何度でも、この手を伸ばしたい)


送信トレイ
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日時:××/××/××
07:57
To:碇シンジ
件名:無題
――――――――――――――――――

加持さん、ありがとう。
今日のお昼ご飯は僕が作りますね。

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End.



2012.04.09

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