『あのね、アキさんにだけ言っておきます…。ぼく、実は…彼氏がいるんです。年上の男のひと。あんなひとと付き合えてるなんて…ぼく、うれしくて…抱きしめられて好きだよって言われたとき、泣いちゃいそうになりました……』


 ある日、君が私にそっと打ち明けてくれた秘密。想定外の告白にあっけにとられた私をさしおいて、


『でもこのことはアキさんにしか言えないことですから、どうか…、内緒にしておいてくださいね…?』


 と、ひかえめに、けれど幸せそうにはにかんでうつむいた君。
恋には鈍感な子だと思っていた…のに。

(そいつさえ現れなければ。この子は私が幸せにするはずだった…)

『騙されてるんじゃないの』
『…騙すって…?なに言ってるんですかアキさん…』
『言葉通りよ。わからないの?』

 一度こじれてしまった感情は軌道修正不可能な状態でさらに複雑なねじれになって私自身を追いこむ。
自分がどうしようもなくバカで荒唐無稽で大人げないことくらいじゅうぶん理解していた。
だったらせめて一度だけでも、たとえ嫌われてでも―――…そうなってくれたらむしろ救われるような思いがして気づいたときにはなんでもないような適当な口実をつくって君を部屋に誘いこみ、シングルベッドの上に押し倒していた。
最初はきょとん、と愛らしい効果音がつきそうな表情をして何が起こったのかうまく状況をのみこめないでいた君は、やがて尋常ではない私の様子に表情を引き攣らせた。

『やめてください、こんなのだめです…!いやですアキさん、離してよっ』
『…無理よ』
『どうしてですか…?まさか今までぼくをそんな目で見てたっていうの?』

 君の表情が不信感でみるみるはりつめてゆくのがひどく不安な気持ちになったけれど、それでもなお、後には引けなかった。
自分の知らないところでいつのまにか、他の男の所有物になっていた事実に―…神経を逆なでされた私はますます感極まって狂っていき、ついにはそれが原因で見下げ果てられてもしかたのないことをしでかしてしまった。

『そう。シンジ君に…夢中になってるの、私。好きだわ、あなたが。ほんとうよ…』
『………!…あの、お気持ちはとても嬉しいです。ぼくも、アキさんのことは大好きで…、だけど、アキさんの言ってるような"好き"では無いんです…。ごめんなさい…』
『…………。』
『どいてください。お願いです…!それにぼくの身体は…もう、あのひとのものだから…』


―――ぼくの身体はもう、あのひとのものだから…。
頬を染めて切なそうに心臓のあたりに手をあてた君は、胸の奥に大切に仕舞いこんでいる、けっして私の届かない場所でのかけがえのない甘やかな思い出を―…掌と、指先でそっと辿っているようだった。
震えた涙声で発せられた抽象的なその言葉の裏の、隠された真実を知って愕然とする。


(先を、越された…)


―――純情そうな顔してるくせに、なんていじらしいのかしら…!
大好きな君の心はとっくに他の奴に奪われて。あげくの果てに、童貞喪失よりも先にヴァージンを捧げていたなんて。

…だからよりいっそう、ムキになってしまった。
アキさん僕の話を聞いて、待って…!と、精一杯に彼氏への想いをもって委縮気味に反抗し、やめてと嫌がった君は。
例えればまるで、肉食獣の攻撃に追いつめられ逃げ場を失い震えている可愛い小動物のよう。
姉のように慕っていた女の不可思議な行動にショックを受けたのか、君は「こんなの、こんなの嘘だ…」と力なくつぶやく。
涙ぐんだ目で中途半端に抵抗されてもそれは私のなかでこの行為をいますぐ中断しなければいけない、といった動機にはまったくといっていいほど結びつかず、逆に発情を促させられている雌猫みたいに目の前の性的対象につよく官能的な刺激を求めてしまう。
そこで私は作意をもって一方的にズボンのファスナーを降ろす強引な形で君のペニスに触れる機会をつくった。その瞬間の私の微笑みは君の瞳の奥にさぞかし不気味に映っていただろうと思う。

『やっ…!?何して…っ…離して、くださいっ』

直にペニスに触れる。玉袋を左手で支え、有無を言わせない態度で指の一本一本をしきりに駆使し、まだ小ぶりなペニスの薄い輪郭を上下に、左右に、リズミカルな動きでなぞる。
君は状況が呑みこめず怖そうにふるふると震えながら目をきゅっと瞑ってみせた。

『あ…っ、アキ、さん……!!やめ、』
『はじめて見た…、シンジ君のおちんちん。細いし、まだほとんど剥けてないのね…可愛いわ、ふふ…』

 太さも長さも年相応の成長途上の、とびきり敏感なペニスだった。
色素の沈着の少ないきれいな包皮から少しだけのぞいた、ぷるんとしたピンク色の亀頭と鈴口。
いかにも男の子らしくて、微笑ましい。
君が彼氏を想う気持ちとは裏腹に、愛撫が進むにつれてそれはあっという間に反応を示し、やがて斜め上を向きはじめた。
少年の欲望の象徴は、すでに私ではない相手―――憎たらしく顔さえも知らない誰かにとっての、至福の一部となっている。

『こんな子どもっぽいおちんちんでも、刺激されたらたくさん出ちゃうのよね…。あぁ、たまらないわ…』

 それが私と君との、最初の危ない綱渡り。
事故のような関係のはじまり。





**********





 うす闇ががった、路地の景色も暗くなりはじめた静謐な土曜日の夕刻。壁にかかったアンティーク風の掛け時計の秒針、指針がともに7時を差す。
外界の景色を遮断するため部屋中のカーテンは閉めきっていた。玄関のドアにもきっちり鍵をかけた。
ぼんやりとしたレモン色の間接照明が取りつけられている、甘ったるく水気の充満したバスルームに、私は君を閉じこめていた。
温かい湯をかぶったせいで濡れ、火照った少年のみずみずしい裸体を正面から抱きしめる。天然素材の石鹸のふわりと優しい匂い。触れている胸の中央からとくん、とくんと微かに鼓動する、命が時間を刻む音。
ひどく安心したのは、いま腕のなかにいる私にとっての至高の存在が、逃げずに大人しくしてくれているからだ。

「ありがと。いま一緒にいてくれて」

 そうお礼を述べて曖昧に笑ってみせたら案の定、

「…ぼく…アキさんとすることによって、やっぱりあのひとがいちばんなんだって…感じていたいから」

なんて意味不明で頓珍漢な答えが返ってきた。
そういう考えかたもあるんだなぁ、と私は感慨深い気分になる。

狭い水槽の内側でただ泳ぐことしか生きる術のない金魚を、「きれいだな」というなんのひねりもない心持ちで眺める飼い主の稟質は、こういうものなんだろうか。
バスタブの、水の届かないあまり濡れる危険性がないであろう場所に忽然と置かれた君の携帯の青いランプだけが、暗闇に浮かぶ信号機のように異様に強い光を放ち、規則的に点滅している。

―――さっきからしつこいなぁ…。さっさと諦めちゃえばいいのに。

 サイレントマナーモードにしてあるから着信音とバイブは鳴らない。だけど私は毎回その着信ランプが不快でたまらなかった。
なぜなら、着信中に液晶画面に表示される発信元―――発信者の名前がさっきからずっと同じだから。
いくら防水加工してあるからといって、せめてバスタイムの最中くらい携帯なんて部屋に置き去りにするか、それが嫌なら電源くらい切ってよと私はその携帯の持ち主である君に言ったけれど、君はそれを頑なに拒否する。「携帯の着信ランプは自分への戒めだから、電源だけは切りたくないんです」と。
そこまで必死に言われてしまえば何も反論できずただ黙って従うしかない。
でも内心、着信ランプが点滅するたびほんのすこしだけ泣きたくなってしまう。君の一途さに。

「シンジ君とするのはこれで、3度目になった。今日は私の部屋じゃなくてホテルだけどね」
「…どうせセフレじゃないですか、ぼくたち」

 ドライでもっともな言葉を投げかけられてもそれが君であるならばこれといって傷つかないのは、きっと自分が病気である証拠だ。
詰め寄ってそのうっすらと汗のにじむ額と頭のてっぺんにいつくしむようなキスをしても君は心ここにあらず、といった表情で私の胸の内なんていざしらず、ただただ哀しげで妖蠱な瞳の奥に着信の止まない携帯電話のランプの光を宿していた。
―――あなただって共犯者なんだから。悪者はふたりとも、よ。
そんなふうに自分に言いきかせるたびなぜか私だけがアンモラルな奴に思えてくる。
この期に及んで到底無理な願いだと悟っていても、今の情事を辯護させたがる私の心の奥に巣食うずさんなプライドの塊に全身が腐蝕されるかのようで胸の鼓動が打つたび、痛い。
私は君の下腹部からふとももまでのゾーンを手でさすり、すべすべとしたもち肌の触り心地を楽しむ。

「私、もしも男だったらシンジ君のことたくさん抱いてあげたいな。立派なおちんちんが付いてたらシンジ君の可愛いお口でたくさんフェラしてもらえるし、下の口のなかにもいっぱいザーメン出せるもの。楽しそう」
「やだな、アキさん。卑猥な言葉ばっかり言わないでよ…ぅ、あ………っ」

たっぷりと唾液を乗せた舌でぬめるペニスの薄皮全体を舐めながら、脳裏では君が彼氏である男とセックスをしている―、腕のなかに抱かれて愛されているであろう姿を生々しく想像してみる。


『××さん…やだ…っ恥ずかしいです………っあんまりそこ、さわったら…えっちな気持ちになっちゃいます…』
『ん…、むっ…はぁ…。××さん、ここ、痛くないですか…?あっ…先っぽから透明なのがたくさん、こぼれてきましたよ…?』
『我慢しないでください、××さん…ぼくの体なら心配しないで…だから…はやく、』
『あんっ…いやぁ…っあ、ぁ……っ××さん、はいって、るっ…よぉっ…!あっっ…、や、ぁ、あっん』


―――そんなエッチなご奉仕をシンジ君が―…相手の男にするのを想像すると、身体の芯から興奮するわ。
君はテクニックに関してはけっして器用とは言えないだろうけど、君なりに精一杯のことをして献身的に相手に尽くすんでしょうね。
 感触、匂い、空気、音、声。意識を集中させれば。その鄙猥な妄想は、無限に広がった。
 男相手でも、女相手でも。君は男である部分をこれでもかと汚されてるはずなのに輝きを失わず、虜にしちゃうようなすごい素質の持ち主よ。ちょっとマゾの血が流れてる、受け身の男の子。
…テクニック以前に、相手の男は君のその無意識な健気さとひたむきな姿にどうしようもなく感じるんだってこと、たぶん君は気付いてない。

「シンジ君くらいのお年頃だと女のひとの裸なんて見て、しかも愛撫なんてされたら痛いほどギンギンに勃っちゃってつらいわよね。いま、よくしてあげる」

 しゃぶっていたペニスからいったん口を離して君の上体のほうへにじり寄り、わざといやらしい動きで着ていたノースリーブのブラウスとミニスカートを堂々と脱ぐ。
黒色のブラジャーとパンティーだけの恰好になったあと、やや前傾してふっくらとした胸の谷間を見せつけ、迫りくる私の―…、ほぼ裸に近い成熟した女の身体の出現を君は無視できず、言葉を失ったまま目が釘づけになっていくのが手にとるように分かった。
私の胸はどちらかといえば大きいほうだったし、これがひそかに自慢だった。
君はどぎまぎとしているであろう内心がそのままが顔全体に現れ、ごくりと唾を飲み下す。抵抗はできないようだった。逃げれないのはきっと、男の本能には勝てないから。

「やめて、ください…!来ないで……っあ、」
「シンジ君だってこのままだとつらいでしょ?悪いようにはしないわ。だから、ほら…ねぇ、私のココ、シンジ君が欲しくてもうこんなに濡れてるの」

 時間をかけた前戯もせず、奇襲攻撃のごとくインサートを開始した。間断なく緩慢な動きで腰を上下させると君の硬直した性器は私のぬめらかな内側に擦られてやすやすと素直に反応してしまう。
それは男に生まれついたならば生理的に避けられないもの。男性的な欲望。
感情云々ではなく否応なしに引きずりだされる、やりすごせない快楽。かわいそうに。でもやめてあげないから。ごめんね。

「…はぁ…っシンジ君ってさ、もしかして上に乗られるの好き?」

 騎乗位。
この体位になった途端いつも君はリミッターが外れたみたいになるのを、私は知っていて問いかけずにはいられなかった。

「なんで?あ、分かったわ言い当ててあげる。この体勢だと君が下になれるから嬉しいんでしょう。付き合ってる例の…、彼氏さんに抱かれてるときのこと思い出せるからじゃないの?ねぇ、そうよね?」
「っ…そ、それは…」

 図星、ね。真っ赤で淫蕩な顔になって君は言葉を選べず行き詰まっている。
あぁこんなとき、なんて分かりやすくて単純な子かしら。
全身全霊でその原因の棚を引き出して、中に仕舞ってある秘密の小箱を取り出し、開けてしまいたい。
その小箱の中身を粗忽な手つきでまさぐる―――それがせめてもの反攻。

「だってほんとうに抱かれてるときみたいな声出すから。まぁそれも仕方がないか…あなた、普段はおちんちん挿れられてる側だものね」

 あなたの声、とっても可愛くて大好き。シンジ君の声って中性的でまるで女の子みたい。声だけじゃない。容姿も、性格さえも、何もかもが清廉できれいで芳ばしく、私好みなの。ねぇ、彼氏さんからも可愛いって言われてるわよね、きっと。
 こんなの君の彼氏が知ったらとっても怒るに決まってる。中学生なのに門限6時にされちゃうほど大切に大切に守られてるんだから。バレるのは時間の問題だろうなぁと私は何となしに思った。それが来たとき、君は何を思う?私はどうなるの?
そして君の彼氏はどう行動するんだろう。私と君、双方に激しく怒って責めたてる?腹いせに私に掴みかかる?過ちを未然に防げなかった自分自身に厭気がさす?無かったコトにするからもう二度と浮気なんて繰り返さないでくれと言って、君を引き留める?それとも侮蔑の表情できっぱりと別れを告げる?
あとほかに思いつくのは…あぁ、そうね…、自分の可愛い恋人がまったく面識のない女に押し倒されて辱められていた悔しさと行き場のない想いを―…、シンジ君を無理矢理犯すことによってまぎらわすかしら?
 
 ―――そうだ、あれを使ってみよう。
閃いた私は挿入を中断し、君の上から立ち退き、離れた。そうしていったんバスルームを出てから、脱衣所の鏡式戸棚のその一番下の引き出しを開けて、奥のほうを手で探る。ずっと試してみたかったもの。ネットのアダルトグッズショップで吟味して選んだ甲斐があったな、と思う。
化粧水、美白美容液、洗顔フォーム、コットンパフ、などの日用品の買い置きのすぐうしろに隠しておいたそれは、会陰部と前立腺の圧迫刺激に特化した電動バイブだ。
嬉々としてその電動バイブを手にとり、ふたたびバスルームに戻った。壁タイルに背中をもたせかけて力なく横座りしていた君の顔が、状況を察して瞬時に凍りつく。

「もっと気持ちよくなる方法教えてあげよっか。これを…君の彼氏さんのおちんちんだと思えばいいの」
「……!?」

 精神的に余裕がない瞬間を狙って残酷な暗示を仄めかせば、君はたやすくその気になってしまうから私はおもしろくて毎度懲りもせずついつい虐め半分な遊びをしてしまう。
あらかじめ用意しておいた、催淫剤入りの潤滑ジェルを電動バイブの表面にたっぷり塗りたくり、電源スイッチをONにした。

「…あなたのだいすきな彼氏さんの太くておおきくて硬いおちんちんなのよ、これは」

私は君のほうへにじり寄り、しゃがみこむ。手を伸ばして膝をさする。
抵抗できるはずなのに、いざとなればこのバスルームから逃げ出すこともできるのに、君の身体は動かない。

「やっ…、ちが…うっ。こんなの、あのひとのじゃ、ない…!」
「ふふっ、彼氏さんは今ここにいないんだからしかたないわ。でも安心して…コレであなたを気持ちよくしてあげる」

君のくびれのあるしなやかな腰つきからぷりっと出た色白で小ぶり、丸みのあるかわいいお尻―――そのうしろの蕾にみだりがましく振動する大人の玩具をつんと押し当て、これでもかと塗りたくる。

「~っ!ぁ、あぁ…あ」

そうして極度に敏感な状態の蕾に触れた玩具の先端を、わずかに中へ押すように、入るか入らないか微妙な出入り口付近で縦に横に擦りつける。
かわいそうなくらいに顔を真っ赤にして脚を左右に開いた君の蕾の周りはどろどろの潤滑ジェルまみれになっていく。
たまらなくなった私はいったん玩具をそこから離し、指先で蕾にそっと触れてみる。

「…っう」
「まぁ…ここ、すっごく熱くなってる。欲しいのね」

嗜虐心をくすぐる反応をされて、眺めているこちらまでが疼いてきてしまう。
熱を含ませているかのように君のそこはたっぷりと潤い、今にもとろんと溶けてしまいそうなほどだ。

「ほら、想像するのよシンジ君。少しずつ彼氏さんのが挿ってくるところを、思い浮かべてみて?」
「そ、そんなっ…あ…っ」

 ちゅる、ずる、ぴちゃり、くちゅ。
甘い水音を漏らしひくひく痙攣する蕾のなかへ、男性器を模範した玩具を挿入させていく。
なるべく痛くならないよう、焦らず気を配りつつ、ぐぐ、と押しこめば、それはまるで濃厚な蜜の奥へ誘いこまれていく生き物のように―…低く唸るモーター音を響かせて中へ中へと進みだした。

「…!…ひゃあんっ…ぁう…、う、あぁ」
「すごいわ、この子ったら…よほど仕込まれてるみたいね…ほんとうに彼氏さんのこと、だいすきなのね…」

君の奥を深く貫くのは、想ってやまない彼へ対する愛情、性欲、背徳感が集まりひとつのオルガスムスの塊となったもの。

「っ、だめえぇっ…!」

私はM字開脚された少年の中心に挿入した偽りの楔でゆるくピストンを開始し、それによって中を犯しはじめた。
ぬる、ぬると体内を滑る物体に―――君の顔は涙で濡れ火照り、甘やかでせつない。

「あっん…あ、いやぁあ…っそれ…うごかさ、ない…でぇ」
「嘘吐いちゃだめよ、いっぱい濡らして必死に咥えちゃって…。あなた男の子だけど、そこら辺の女よりだいぶエッチなんじゃない?」

―――近所に住むまだ中学生の可愛い男の子に私、とてもいやらしいコトしてる―…。男である君が、女である私にこんな扱いを受けてどれほどいたたまれない想いでしょうね…。
男と女の立場の逆転。それは不可思議で、性的倒錯による欲望が生み出した、秘匿で扇情的な光景。
大人の玩具と、それに加え催淫剤入りローションソープによってもたらされる快感は、数分もしないうちに君を混乱させ、狂わせた。
甘い香りのする液体ローションに含まれている催淫剤。それは、強力なものだった。

「こんなの…、こんな…!ぁ…あ、…っ……加持、さんっ…」

はじめて君の口から漏れたその名前で、私の衝動はますます加速する。
―――さぁ、思う存分その名前を呼んで私を苦しませて。
私と一緒にいることなんて忘れて、君はいま、ここにいない大切な彼を想い描いて、玩具を彼自身に見立て、それによって貫かれることの快感に打ちひしがれている。

「…っ!んぁっ……加持、さん……っ…かじ…さ…ぼく…ゃっ!ぁあっ」

 シンジ君って、ずるい。ほんとうに、ずるい…。
どこまでも必死で、そして儚くて。虜にさせておきながら、いちばん欲しいものはくれない。


「悔しいの…。シンジ君の気持ちを…、ひとりじめできるのが」


 別にこの子のいちばんになれなくてもいい、と。半場やけくそになっていた。
勝てなくても、越えられなくとも、批判されても。私だけの愛の形があればそれはそれでいいのだと思ってしまう自分は我儘で身勝手で小心者だ、それでも触れたい、こっちを見てほしいと切望する本能の嘆きに見て見ぬフリをするのは無理だった。
我慢をするのは無理だった。

 ねぇ、シンジ君。―――つくづく厄介な感情よね…嫉妬なんてものは。
あなたのことを愛しているのは、あなたの彼氏さんだけじゃないのよ。





「…そんなに…そんなにぼくが、いいですか?」
「ええ…」
「欲しいなら、つかまえてみてください…。ふふ、あのひとは…、ちゃんとつかまえてくれましたよ」






End.

2014.08.01





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