「いやだ、もうほっといてくださいよ僕のことなんか!」

 あぁ、しまったと思う。
そんなに血相を変えて言われるまで自分はこの少年に何かと干渉していたのだろうか。
いやちがう、でも以前はそんなことはなかった。どんなに気に入った相手でもある程度の距離をとるのが今までの自分だったはず。
使命を果たす、という覚悟を決めてからは、できるだけひとつのものに執着しないようにしてきたつもりだった。
今ではもう懐かしい葛城との恋愛で身についた、わずかな防衛術。

 彼女との恋愛は後悔はしていない。それでも恋をするというのは自分のすべてを曝け出している様で(実際そうなのだが)急にのめり込むのが怖くなった。
女は好きだけれど、本気の恋なんて。本気の愛だなんて、俺には到底無理かもしれないと心のなかでうすうすと感じていた。
そんなのはもう、どうだっていいとさえ思うようになっていた。

 それなのに、人間の心は実に不便な造りになっているもので。
この少年に出逢ってから、俺はその考えた方が変わってしまったのかもしれない。
興味というものは実に恐ろしい。知りたくて欲しくて求めてやまない追求が、あるひとりの少年に向けられたのだから。

「ほうっておきたくないんだよ」
「僕はひとりがいいんです!」
「本当に?」
「―――っ、」

 俺が迫れば迫るほど、君は辛くて苦しそうな顔をする。
前々から思っていたがこの少年は本当に繊細な表情をする、それは負の感情で表わされているけれども。
でもシンジ君、本来きみに似合うのはそんな表情じゃないよ。決して。

「俺を、こわがるなよ」

腕を引き寄せて優しく抱きしめてみれば、抵抗されるかと思ったが。
特になんの拒絶もせずに大人しく俺の腕のなかに収まっている。

「か、加持さん?あ、あのっ、離してください…」

問題は君自身さ、シンジ君。
まるで自分の意思とは正反対のこと言ってる、それに気付けないほど俺も鈍感じゃないからな。
ましてや、この繊細で壊れやすい少年は嘘をつくのが下手ときた。

「いやだ、優しくしないで…」
「好きだと言っても?」
「え、」

真剣な面持ちで瞳を見つめたら当の本人は赤くなって信じられないという表情で俺の顔をちらりと覗く。
たった今しがた俺から言われた思いがけない告白に。

「す、き?」
「そう、好き」
「僕…男ですよ?」
「関係ないさ」
「からかってるんですか…」
「本気だ」
「うそ、だ…」

心の中でクスリと笑う。まずはこの意地っ張りを何とかしなくちゃな。
どっちにしろ俺だって触れたい衝動を止める事ができなかった。

「信じないなら分からせてやる」

シンジの顎を掴み、斜め上から口づけを落とす。
驚いたシンジは離れようとしたが、それを赦さず、ねっとりとした舌で唇を一舐めして上唇を啄ばむ。

「あ、加持さん…!やめ、」

僅かに開いた口を見逃さずにするりと舌を咥内に入り込ませて、逃げようとするシンジの舌を絡めとった。
歯列をなぞり唾液を注いでされに舌を重ねて夢中で吸ってさらに奥へと進む。

「ふ、はぁ…!」

初めてされる加持からの大人のキスに、シンジは混乱と戸惑いと知らない快感で酔い痺れそうだった。

「んぅ、ぁ…っ」

シンジが苦しそうなところでやっと唇から離れた。
先程の行為の名残で感覚が残っているシンジの焦点はぼんやりと加持を見つめ、頬を赤らめてまだ落ち着かない息遣いは荒かった。

「…んっ!」

 ほら、やっぱり。思った通りの反応をしてくれるね、君は。
もう少し時間が経てば、この感情をどんな複雑な言葉にして君に伝えようか。
悪戯な子供のような感覚でこの純真な少年を追い詰めてゆくのが楽しくて仕方ない。
恋とか以前に自分はもうこの少年に完全に嵌ってしまったのだ。

―…ほうっておくなんて、もったいないことこの上ないじゃないか。
ましてやほかの誰かに渡すのなんて、そんなの面白くないだろう?





End.



2010.07.08

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